人の感情はいろいろな手段によって表現される。そのうちのひとつに発話の韻律がある。「(計算が)あわないの」という発話も文全体の音調によっていろいろな感情を伴っているように言い分け、聞き分けられる。「平静の平叙文」と聞き取られる発話を使い、この音声をどのように変えたら「非難の疑問文」に聞き取られるか、合成音声を作成して実験した。 発話の頭と文中のもっとも高い部分とのピッチをそれぞれ、-60Hzから+60Hzまで10Hzごとに変化させ、原音と合わせて25の音声を用意した。これらの音声をランダムに並べて実験テープを作成し、日本語母語話者16名を対象に聴取実験を行なった。その結果、発話の頭の部分のピッチを下げると「非難の疑問文」に聞かれるはっきりとした傾向が見られた。が、もっともピッチが高い部分に関しては、こうすれば「非難の疑問文」に聞かれるようになるというはっきりした傾向は見られなかった。 もう一つ大きな実績は、この日本語教育研究室で行なってきた実験音声学の研究成果を平成5年のものから集大成したことである。日本語長母音の聞き取りに関するもの、語のアクセントと文末イントネーションとのかさなり、無声化した母音の音価の本質、文音調の機能、以上の実験、研究をまとめ、この3年間の研究の報告書とした。すべて、日本語音声の単位である「拍」の本質の解明につながるものである。
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