東南アジア諸語のなかでもタイ語母語話者の日本語学習者は増加の一途をたどっている。一方、タイ語と日本語の対照研究に関しては一部を除き厳密な記述研究は十分ではない。本研究は日本語とタイ語の対照研究を記述し、その成果を通してタイ人のための日本語教育(教材開発及び教授法)にも役立たせることを目的とする。 初年度はタイ語前置詞と日本語の格助詞との対応関係を考察し、次年度においては受動文の比較、および連体節、引用節などの日タイ語対照研究を行った。また、バンコク市を中心に大学などの語学教育機関を視察し、資料収集および研究者、教育者との意見交換を行った。最終年度はタイ語の副詞句について考察し、主用な表現について日本語と比較考察を行った。また、語彙論、意味論研究として、色彩語彙、飲食動詞、身体語彙などの慣用表現をとりあげた。さらに、日タイ語のアスペクトの比較の一環として「もう」と「まだ」に対応するタイ語表現をあつかった。さらに日本語の形式名詞「ところ」とタイ語のthiiを比較しながら、日タイ語の空闘認識の構造について考察を行った。 以上の研究は、各種学術雑誌、大学内部紀要などにおいて発表され、タイ語学の知見とともに日本語との対照研究の新たな手法を提供した。また、これらの研究を通じて、日タイ語の対照研究の課題と方法論が明らかにされ、今後の研究の出発点を確認することができた。タイ人日本語学習者の誤用分析にも有益な点が提供された。今後はデータベースの作成とともにこれらの個別的な記述研究をより深めていかなければならない。 最終年度はこれと平行して三年間にわたる研究成果を体系的にまとめる作業を進めた。研究成果報告書は全8部と補論より構成され、研究経緯とともにおよそ18本の研究論文を収録する。B5版約400頁に上る予定で、東南アジア語の中心的位置を占めるタイ語と日本語との最初の対照研究論文集として、各方面での参照、活用が期待される。
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