本年度は科学研究費「計算機科学における下界の研究」の初年度であり、本格的な研究の準備を行った。 本研究の目的は、計算機科学における下界をさまざまな視点から検討し、求めることである。そのため、第一の計画として下界を求めるための理論的研究を行う。計算量理論において下界を示す対象とされてきた問題や、組合せ理論における問題の下界を理論的に求めることである。完全問題の対象となる問題の多くはNP、PSPACEなどのクラスの問題であり、いずれも高度の複雑性を有するクラスである。 平成10年度の研究により研究分担者の武永は、論理関数値の正の例と負の例から、それらを満たす幅最小またはノード数最小のニ分決定グラフを求める最小推論問題が、論理関数を単調関数に限定してもNP完全であることを示した。 第二の計画は、コンピュータで計算することにより下界を求めるためのアルゴリズムを設計することである。対象とする問題は組合せ理論における未解決問題の中から選ぶ。もし可能ならば実際にコンピュータで計算する。使用するコンピュータは以前に科研費で購入したワークステーションやその他当研究室にあるものを使用する。この種の計算は膨大な計算時間を必要とするものと予想される。 研究分担者の笠井はSpine grammarを定義し、線形プッシュダウン木オートマトンにより受理される木言語のクラスはSpine Grammarによる生成される木言語のクラスと一致することを示した。 これは本研究をすすめるための基礎研究であり、次年度の研究に参考にしていく予定である。 なお平成11年度が終了するまでに、下界を求めることに関する何らかの結果を出したいと考えている。
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