可逆コンピューティングは量子コンピューティングと共に将来の計算機の可能性を探る研究として重要であり、現在その基礎研究が最も必要な時期にある。本研究ではそのような観点から可逆計算機構の理論的研究を行い、以下の成果を得た。 1.論理万能性を有する単純な可逆セル・オートマトン 任意の論理回路やコンピュータがどのような可逆的基本法則から構成できるかという問題を可逆セル・オートマトンを用いて研究し、それが極度に単純な可逆的遷移規則にまで還元できることを明らかにした。 2.保存性の概念の拡張と保存的可逆セル・オートマトン 物理学における(エネルギーなどの)保存性に相当する性質を持つセル・オートマトンを研究した。特に、保存性の概念を拡張した可逆セル・オートマトンを定義し、その計算万能性を証明した。 3.可逆セル・オートマトンにおける自己増殖 平成9年度までの研究により、自己増殖(パターンの自己複製)が可能な2次元可逆セル空間を与えたが、今回はこれを3次元に拡張し、非常に多様なパターンの自己複製が可能となることを示した。 4.可逆性を有する、記号列および2次元パターンの生成システム 可逆性に相当する「一意解析性」を持つある種の文法システムについて研究し、決定性文脈自由言語族を正確に特徴付ける単純な一意解析可能文法の族、およびあらゆる連結図形集合を生成する一意解析可能2次元アレイ文法を与えた。
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