研究概要 |
平成10年度においては,視認知における注意現象の基本的特性を現象論的に明確にすると同時に、その可能な数理的取り扱い方法を確立することを目的に研究を進めた。すなわち、注意の波動的な様相を持つ並列情報処理特性や注意のダイナミックな切り替え現象を記述しうる法則や変数についての現象論的知見の解析を行うとともに、認知の交代想起や注意の配分を、ニューロンから構成される大規模複雑系としての脳における量子情報処理的な創発機構とみなし、人間の情報処理の入出力系のパインディングに果たす注意や意識の役割の数理的記述を模索するために、その第一段階として、量子ニューロ情報処理の理論的定式化及びその妥当性を検討した。その結果、ニューロン状態を量子力学的に記述し、量子計算の量子回路形式に対応した量子描像ニューラルネットワークを提案し得た。さらに、得られたモデルの妥当性を基本論理演算や4ビットパリティチェック問題及び関数同定問題などの具体的問題についてその情報処理能力の評価を行った。この解析結果においては、本モデルが学習係数に依存せずに学習できること、及び数回の学習で問題を獲得できるなど従来のニューロンモデルよりも優れた学習能力を有することを示し得ることができ、モデルの有効性を立証し得た。上記研究成果に述べたように、量子描像ニューラルネットワークの理論的枠組を構成することができた点で、当初の計画は達成し得たと考える。しかしながら、大規模問題における量子描像ニューラルネットワークの性能評価や量子描像ニューロンにおいて導かれた位相パラメータや反転パラメータの情報処理における役割を明確にし、注意問題などへの適用基盤を得るためにも、量子ニューロ情報処理モデルの理論的基礎を確立していくことが今後の課題である。
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