本研究課題では、量子ニューロ情報処理手法を確立するとともに、注意や意識機能の工学応用を計るため、視認知における交代想起現象の計算論的情報処理モデル構築をめざして研究を遂行した。そのために、第一に、量子力学的描像に基づく量子ビットニューロンとそのネットワークモデルを構築して、パリティチェックや関数同定などの具体的問題に適用し、その性能を検討して実用システムとしての有効性を確立すること、第二に、他の有力モデル、特に従来型複素数ニューラルネットワークモデルとの比較を通じて量子ニューロ情報処理の理論的枠組を整備すること、第三に、心理実験から知られている「認知持続時間のガンマ分布獲得]を交代想起現象における注意切り替え特性としてこれを記述しうる並列分散的バインディングシステムの新しい記述を試みることを行った。その主な成果は、実用上広く用いられている階層型ニューラルネットワークに量子ビットニューロンモデルを適用してその適用範囲を広げるとともに、パラメータ総数100程度規模の実用的な学習問題に対して得られた学習性能図から、従来型モデルに比較して高い学習能力を有することを示し得た。この学習能力の発現は、ニューロンの発火、非発火の量子重ね合わせ状態記述と確率解釈に起因していることも数値実験を通じて指摘し得た。このようにニューロコンピューティングと量子計算に基づく量子描像との融合は学習に対する性能向上の促進をもたらす効果のあることを明らかにし、量子ニューロ情報処理の計算論的枠組を定式化し得た点及びこれらの成果を国内外に広く発表できた点では、当初の計画は達成し得たと考える。しかしながら、注意の切り替えの解析とモデル化については、その結合振動子型およびカオスニューラルネットワークモデルによる記述を導き得たが、これらと量子ビットニューロンとの関連を明確にすることなどは今後の課題であると考える。
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