平成10年度は、遺伝的行動モデルの原型として、複数種の植物プランクトン、動物プランクトン、溶存態有機物(デトリタス)、懸濁態有機物(COD)、酸素、栄養塩(窒素、燐)からなる海洋生態系の個体群モデルを設計して、半閉鎖系である海洋空間での動的な行動(動態)を数値シミュレーションで解析できるようなソフトウェアを開発した。この海洋生態系モデルは、北東アジア大陸の付属海である日本海を対象として、その海域での個体群、栄養塩、酸素の分布を長期的に計算するものである。 また、人間による経済活動との相互関係は、1)水質汚濁物質の流入、2)有害化学物質の流入、3)漁業資源の収奪、等があるが、このモデルでは、日本海に流入する河川系からの有機性汚濁物質(COD)のみを取り入れている。そこでは、中国東北部、極東ロシア、南北朝鮮半島、日本列島において、日本海へ流れ込む河川流域での工業、農業、家計(人口)等の統計データを用いて有機性汚濁量が推算されて、流入河川のそれぞれ河口部から日本海へ流入することになる。 この海洋生態系の数値シミュレーションは、本研究費で増強された高速のワークステーション上で行われ、演算結果は画像処理されて、3次元海洋空間上の任意の場所での個体群、栄養塩、酸素の濃度分布を示すことができるようになった。 次年度以降には、これらの個体群のプランクトンの増殖、移動、捕食、死亡等の生物機能に遺伝的な要素を取り入れて、海洋の物理、化学的な条件、人間による汚濁物質、廃棄物の種類や量にどのように反応し、遷移していくのかをモデルに組み込み、生物個体群の遺伝的行動モデルの挙動を解析することになる。
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