本研究は、社会現象や生態系において、ミクロな多数の個体の行動からマクロな集団としての社会システムや個体群システムが、いかに自己組織化され、一定の秩序が形成されていくのかを、最近の人工生命・人工社会分野で発達した遺伝的アルゴリズムを取り入れた遺伝的行動モデルを開発することにより分析したものである。研究代表者がこれまでに開発してきた閉鎖性水域や沿岸域における赤潮の発生現象を、複雑系としての経済・生態系システムと考えて、プランクトン種の個体群と人間活動との関係をシミュレーションする枠組みを遺伝行動モデルによって構築した。 1)平成10、11年度では、沿岸域で発生している赤潮現象、深層水における溶存酸素の減少傾向等を分析する生態系モデルを構築し、プランクトンの競合と捕食関係、汚濁物質と栄養塩、溶存酸素量の移流と拡散による分布を、海域で数値計算できるように、既存の3次元流体モデルを改良して、沿岸域における汚濁物質の流入の経済モデルと結合させて、経済・生態系モデルを構築した。 2)平成12年度では、生物種の個々の個体を直接に取り扱えるマルチ・エージェントによる遺伝行動モデルとして新しい展開を図った。すなわち、赤潮状態をつくり出す植物プランクトン種を構成する個体毎に多様な遺伝的な特性を持たせることにより、水域や沿岸域における人間の経済活動による生息環境の変化に対する、生態系の遷移のダイナミクス(自己組織化と秩序形成)を分析する数値シミュレーション手段を開発した。 この数値シミュレーションでは、2種の植物プランクトン、1種の動物プランクトン種の各個体に、増殖度、遊泳速度、シスト化等の生物機能を遺伝子としてコード化して、遺伝アルゴリズムによる生態系の遷移のシミュレーションを通じて、(1)多様な生態系の種の遷移と新しい秩序への動的過程、(2)人間の生態系の資源利用と生物個体群の生存活動が一種の社会システム的ジレンマを形成するようなシステム的課題の検討の分析を可能とした。
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