この一年、交通需要マネジメント(TDM)の発想に基づく都市の交通施策については、かなり多くのアイデアが議論され、とくにITS(高度道路交通システム)の技術を活用したものについては試行も検討されつつある。成熟社会における都市交通問題の解決に向けては、TDMの発想が不可欠であることを示すものといえよう。 本研究は、様々なTDM手法を効果的に展開するための制度的社会基盤のあり様と、制約の厳しい下での物的社会基盤整備の方向を追求することを課題としており、初年度には総合交通政策の推進に当たっての基本理念を再検討すると共に、多様な道路整備方法について検討して来た。本年は、これに引続き、まずTDM推進のためには、交通計画以前の手続きとして、市民のモビリティの現況を十分分析的に把握し、政策基準として市民のモビリティのあるべき姿を明示することの必要性を論じた(論文(1))。また、昨年度提起した公道の使い方についての市民的合意の形成と公準づくりについては、その後、研究者や行政関係者の討議を重ね、確定した論文として公表した(論文(2))。 また、都市の社会基盤としてバスサービスシステムを整備することの意義と方法については、折からの運輸需給調整規制の廃止の動向に合わせて緊急論文を発表した(論文(3))。これは、その後上記と同様の討議を経た上、現在、雑誌「運輸政策研究」に投稿中である。別途、市内バス路線網の編成基準についての研究も進行中であり(論文(4)(5))、これらをとりまとめて今春には本研究の一応の総括ができそうである。なお、これらの成果は、折から執筆した教科書「交通工学」((6))にも多く活用することができた。
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