本研究では被災前の付き合いが、被災後どのように変化しているか、被災後に新たに近所付き合いを始めた隣人と、どのような付き合いをしているか、さらに、地域帰属意識の変化などを取り上げ、それらの実態と変容に及ぼす被災住民の空間的な再配置の影響を明らかにすることを、主な目的としている。調査は、仮設住宅などへの一時的な避難はあったにしても、その後ふたたび元の住所に戻って生活を続けている被災住民よりも、被災前の住所に戻ることが不可能になった、例えば水無川上流部の南・北上木場町などの被災住民を主な対象としている。調査はおもにアンケート調査によっている。あくまでも現時点で回収できた調査票の分析ではあるが、被災に伴う移転の結果、被災前と比較すると、新たな町内会の行事への参加がより消極的になっているという認識が目立つ。そして、この認識の裏返しでもあろうが、被災前の旧町内会への再帰の希望が目立ち、新たな住環境に適応することの難しさが窺える。一方、近所付き合いに関しては、新たな近所との付き合いが被災前に比較して希薄になっているという認識を被災者が持っているようである。旧町内会構成メンバーとの付き合いについては、被災後も持続している人がいる反面、異なる町内会にそれぞれ所属していることを理由に、かつての付き合いが途絶えているという人もおり、近所付き合いの深度に対する距離の効果を伺わせる。ただし、新たな町内会での近所付き合いの希薄さからも言えることであるが、単純に距離と付き合いの深度が逆比例の関係にあるという訳ではなく、他にどのような要因が深く拘わっているのかを明らかにすることも、今後の課題のひとつである。
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