研究概要 |
「退職給付に係わる会計基準」(新会計基準)の適用を最初に受ける2001年3月末日決算企業について,1999年9月期半期報告書から2001年3月期決算報告書までの半期ごとの報告書における開示情報を対象に,退職給付に関する負債と資産の内容と,各企業への証券市場評価を分析した。対象期間の決算報告書はすでに連結重視に移行しているので連結決算における対応-すなわち連結財務諸表における開示情報を中心に分析をおこなった。 指針に従えば,新会計基準への直接の対応行動が最初に明らかになるのは2000年9月期半期報告書である。しかし,実際には退職給付会計基準適用の影響あるいは適応行動を考える際に,適用開始の2001年3月期のみを対象にしては不十分であり,多くの企業は,2000年3月期にすでに行動を起こしていることが判明した。そこで,「会計基準変更時差異先行処理額」を定義し,企業の退職給付にかかわる負債-資産の内容・開示の健全化への行動パターンを統計的に解析し明らかにした。 明らかになった主たる結果は以下の3点である。(1)退職給付会計基準適用を待たずに,多くの企業が退職給付に関する債務およびその開示の健全化のための先行処理をおこなっている。(2)会計基準適用後の変更時差異の解消には,信託設定方式が有効である。(3)業績の急激な落ち込みを嫌う企業は会計基準変更差異の長期償却を選択するが,早期の健全化を目指す企業は業績悪化を厭わない。 また,証券市場と関連して,過去に投資キャッシュフローあるいは財務キャッシュフローとして支出されてきたキャッシュフローの一部を営業キャッシュフロー中の人件費支出とみなして再評価する方向が考えられることもわかった。
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