研究概要 |
日本企業はそれぞれ独自の年金および退職一時金による従業員退職給付制度を持つている。しかし,年金債務に関してはずっと開示されていなかった。1998年に日本の大蔵省企業会計審議会は「退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書」「退職給付に係る会計基準」を公表し,すべての退職給付にかかわる債務を開示するようにした。2000年会計年度は新しい退職給付会計基準が適用される最初の年である。 本研究は3つの主題を研究するものである。企業が年金および退職金制度を決定する際にキャッシュフローあるいはそのほか何らかの要因が存在するのか。企業は新退職給付会計基準にどのように対応したか。株式市場は退職給付情報の開示を評価しているか。1984年から2001年にわたり,東京証券市場に上場している企業が継続的に調査された。 退職給付を推定するために構築された退職給付債務推定モデルを詳細な検討から,企業を評する差異に,その従業員平均年齢と退職給付の割引率との関係が重要であることがわかった。従業員が若いほど,割引率引き下げの退職給付にもたらす影響が悪くなるのである。新退職給付会計基準適用に先立って,多くの企業が2000年度以前に会計基準変更時差異を縮小するための選考行動を起こしていた。変更時差異を縮小するためには退職給付信託を設立することが非常に効果的である。1998年の公開以後滲み出した退職給付に関する開示情報を株式市場は評価していることがわかった。活動を開示しないものは証券市場では過小(より悪く)評価されることをも示している。経営開示に適切な会計システムの下では市場は適当にバランスの取れたキャッシュフロー政策をとる企業を評価するであろう。
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