研究概要 |
1. 飛鳥〜平安時代前期を扱うもっとも重要な基本史料である六国史をとりあげ,そこに含まれる歴史情報量の時間変遷と欠落状況を明らかにした.情報量のパラメータとしては,事象・事件を記述した部分のみを抽出し,その文字数をカウントした.その結果,概して時代が新しいほど総情報量が多いこと,総情報量は史料撰者の替わり目で不連続的に変化し,同じ撰者が扱う領域中ではさほど大きな変化がないことを明らかにした.また,六国史の中で延暦十一年(792)一月から天長十年(833)二月までの41年1ヶ月間を扱う『日本後紀』のもつ情報量は,当初の23%(9年7ヶ月分)しか現存していないことがわかった.さらに,総情報量中に占める「自然現象にかんする情報量」の時間的変遷を求める作業を続行中であり,自然現象に関する情報量が,総情報量と同様,概して時代が新しいほど増加していることをみいだしつつある. 2. 以上のように基本史料のもつ情報量と欠落期間を詳細にマッピングしていく作業と並行し,古代〜中世にかけて起きたとされる主要な大地震や火山噴火の発生当時の同時代記録の現存状況を調べ,個々の大地震や火山噴火の信頼性を検証するとともに,地震活動・火山活動の時間的盛衰を明らかにする作業をおこないつつある.具体的には,富士山の火山活動,ならびに南海および相模トラフで生じる大地震を対象とした.その結果,11世紀以前の平安時代における富士山の噴火頻度が17世紀後半以降より高かったことはほぼ確実であること,12世紀〜17世紀前半の期間は史料現存状況がわるく火山活動記録の遺漏が予想されること,史料不十分で判断不能の1605年地震と1944年地震を除いた残りの11の南海および相模トラフ地震のすべてについて時間的に近接して(±25年以内に)富士山の火山活動に変化が生じたことなどを明らかにした.
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