研究概要 |
本研究においては,まず飛鳥時代〜平安時代前期(おおよそ西暦672年〜887年の期間)の基本史料(六国史:日本書紀から日本三代実録までの朝廷編纂による6つの国史)を対象として,そこに含まれる歴史情報量の時間変遷と欠落状況を明らかにした.情報量のパラメータとしては,日々の事象・事件を叙述した部分を抽出し,その文字数をカウントした.また,事件記載がない日を理由別(巻や頁の脱落,文字脱落,筆者の不記載)に分けて入力し,事件記載がある日についても記載内容にもとづいた分類をおこなって入力した.その結果,六国史時代の歴史記述の総情報量および自然現象に関する情報量は,概して時代が新しくなるほど増加するとともに,史料境界において,つまり編纂者集団の違いによって,不連続的に大きく増加することがわかった.とくに地震の記録日数は,六国史の中の5番目の史料『日本文徳天皇実録』以降急激に増加しており,国史編纂上での地震記録の扱い方に変化が生じたことが伺われる.したがって,六国史時代の地震を研究する際には,見かけ上の地震記録数や密度の変遷が必ずしも実際の地震活動度の変化を反映しない点に注意する必要があることがわかった.さらに,六国史時代以降から中世末期(888年〜16世紀末)について,現存の歴史記録としては最も豊富な京都付近の公卿・僧侶の日記に的を絞り,それらの月別の記録現存密度を調べた.その結果,六国史の終了した888年以降の歴史情報量と現存記録密度は,六国史時代と比べて格段に低下することを定量的に明らかにした.以上の結果にもとづいて,従来の地形・地質学的調査によって判明されたとされてきた地震イベントと歴史記録との対比,ならびに歴史時代における地震活動度の変遷についての通説のいくつか(887年の伊勢原断層地震,762年の飛騨・美濃・信濃国地震,9世紀の地震活動ピーク説など)について訂正点を指摘した.
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