研究概要 |
平成10年度は核融合プラズマ対向材として注目されるMoおよびW試料の作成、イオンビーム技術を用いた水素濃度分析と結晶欠陥の観察を行い、これら材料中にイオン注入された水素の捕捉と照射損傷との関係、および表面不純物炭素の水素挙動への影響について新たな知見を得た。 室温における水素イオン照射でのW表面近傍の捕捉重水素濃度は、Mo表面近傍の捕捉重水素濃度の数倍に達するが、注入温度500Kでの捕捉水素量は室温の約10分の1に減少し、Mo中の捕捉量とほぼ同じ値を示す。W結晶では水素注入に伴い高密度の拡張欠陥が生成され、欠陥蓄積量の照射量および照射温度依存性は、重水素捕捉量の照射量・温度依存性と似かよっていた。また、室温照射で生成されたW表面近傍の拡張欠陥の回復は400K以上で起こり、捕捉重水素の加熱再放出挙動との類似が認められた。これらの結果は、水素イオン注入時に生成される転位ループなどの拡張欠陥が水素捕捉に重要な役割を果たしていることを示唆している。 高純度Wにくらべ、炭素を含むWの場合には注入水素の平均飛程より深いところでの捕捉水素濃度が高い。特に単結晶Moの場合、800K程度の熱処理でごく薄い(数十nm)炭素含有層が形成され、特にその層の厚さが注入水素の平均飛程度の場合には捕捉重水素量が著しく増大することが見いだされた。これら炭素を含むMo,Wからの捕捉水素の加熱再放出は純Mo,Wより低い温度(400K以下)を中心に起こることが示された。 今後は、水素と照射欠陥との相互作用について明らかにするため、注入温度だけでなく注入エネルギーおよび注入粒子束密度に注目した実験を行う一方、表面炭素不純物が水素の捕捉、透過、表面再結合に与える影響、その機構についても調べる予定である。
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