平成11年度はプラズマ対向材料として有望視されるWおよびMoについて、まず、不純物のない場合のこれら材料表面に打ち込まれた重水素と照射欠陥との相互作用を検討し、次に重水素照射にさきだつヘリウム予照射の影響を調べた。さらに、表面近傍に酸化物層がある場合の水素挙動を観察し、炭化物層との比較を行った。 高純度W、Mo単結晶に重水素イオンを注入した際の格子ひずみと捕捉重水素の深さ方向の分布はよく一致した。また、はじき出しを起こさないような低エネルギー重水素は、低濃度ではあるが表面から試料深くまで一様に捕捉されることが明らかとなった。さらに、捕捉重水素の格子位置は入射エネルギーによらず体心立方格子の四面体位置からわずかにずれた位置に見出された。これらの結果から、重水素イオン注入に伴い格子ひずみが生成され、重水素はそのひずみを緩和するように存在していると考えられる。 ごくわずかのヘリウム予照射によって、室温付近の重水素捕捉量は急激に増加する。ヘリウム予照射量を二桁増やしても捕捉重水素量は変わらないが、結晶組織および重水素加熱再放出挙動は照射量が少ない場合と比べ著しい変化が見られた。一方、照射温度が700K以上の照射温度の場合は、ヘリウム予照射量が多くとも、重水素注入時と同様な格子ひずみが観察され、さらに重水素捕捉量、加熱再放出挙動も重水素注入のみの場合と類似した結果が得られた。 重水素は酸化膜中に優先的に高濃度に蓄積され、下地である純WおよびMo単結晶領域にはほとんど補足されず、炭化物層と著しい違いを示した。Mo酸化物層の水素濃度が飽和状態に達すると、引き続く重水素注入により酸化膜の厚さは減少し、補足重水素量も同時に減少する。また、Mo酸化物層からの重水素の再放出は約370Kから起り、同時に酸化膜厚も減少することから、水素が水分子の形で酸化膜中に存在していることが予想される。
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