研究概要 |
環境中のトリチウム(T)は,雨水中に,^1H:T=1:1×10^<-18>程度存在することが知られており,これらは主として上空で宇宙線との核反応によって生成される。しかし,原子力発電や使用済み核燃料再処理,核融合研究などによってもTは作られており,これらが環境中に放出される可能性は高い。環境中に放出されたTは,水蒸気中の^1Hと入れ替わり,HTO分子どなって移動することが多く,単量体(または高分子)中の官能基との間で水素同位体交換反応を引き起こす。この反応が生態中で起こると,内部被爆などの原因となることが危惧されており,この反応の難易性を種々の物質中の官能基,とりわけ,生体関連の官能基について早急に調査し,将来予想される「T汚染増加」に向けた対策を講じることは重要である。 以上のことを考慮に入れ,生体関連の官能基における水素同位体交換反応の起こり易さを定量的に明らかにすることを本研究の目的とし,本年度は,NH_2基を持つポリアクリルアミド(PAAm)とOH基を持つポリ(ビニルアルコール)(PVA)とを用いて,次の実験を行った。 (1) T標識ポリアクリルアミド(PAAm)を,所定温度と所定湿度の高温高湿器に入れ,この高分子から放出されるT量を観測する。 (2) ポリ(ビニルアルコール)(PVA)とHTO蒸気との間での固気反応を観測する。 その結果,以下のことがわかった。(1)温度が高くなるにつれ,T標識PAAmからの散逸T量が増える。(2)ある湿度範囲では,T標識PAAmからの散逸T量は殆ど変化しない。(3)湿度90%では,T標識PAAmからのTの散逸形態が変化する。(4)PVAの重合度の増加に伴い,そのPVA中のOH基の反応性は減少する。(5)重合度1000以上では,PVA中のOH基の反応性の減少割合が小さい。
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