研究概要 |
生態中に存在する主要な官能基が環境中のトリチウム(T)との間で起こす水素同位体交換反応の難易性を定量的に追究することで,Tが生態系に及ぼす影響を定量的に明らかにすることを本研究の目的とし,本年度は未標識ポリ(ビニルアルコール)がHTO蒸気との間で起こす同位体交換反応を速度論的に追究した。用いた温度は,35〜80℃である。35℃で観測した理由は,より自然環境に近い温度におけるT-for-H交換反応の可能性を明らかにするためである。今回試料物質に使ったPVAの重合度は,500,1000,2000,2800,3500であった。これらの交換反応から得られたデータにA´-McKayブロット法を適用することで,この反応における各種PVAの速度定数(k)を算出した。得られたkや以前得られた結果などを相互比較した結果,以下の6つが明らかとなった。(1)35〜80℃において,HTO蒸気と各種PVAとの間でT-for-H交換反応が起こり,この場合,交換に関与する原子はPVAのOH基のHとHTO蒸気のTとである。(2)PVAの反応性は温度の増加とともに増加し,重合度の増加とともに減少する。(3)重合度の増加に伴うkの減少割合には,重合度1000付近で変化が見られ,1000以下では減少割合はかなり大きい。(4)重合度1000以下では,PVAの反応性は,温度による影響よりも,重合度による影響を強く受け,重合度が小さいと反応性は大きい。(5)重合度1000以上では,PVAの反応性は,重合度と温度の両方の影響を受け,温度が高いと反応性は大きい。(6)固気系でのT-for-H交換反応は,35〜80℃の範囲では変化せず,35℃での反応性は無視できない。 さらに,本研究で得られた結果は、Tが生態系中の官能基(OH基)に及ぼす影響を定量的に表しており,環境に及ぼすTの影響は無視できないことがわかった。
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