研究概要 |
目的:320℃近辺で運転ざれる加圧水型原子力発電において、一次冷却水系ポンプの台座や原子炉容器のステンレス鋼溶接部から一次冷却水が漏水するなどの事例が報告されている。原子力発電装置の安全性評価や寿命延長を目的として、ステンレス鋼溶接部の長時間熱時効による組成変化と機械的性質変化を調査する。試料および方法:厚さ41mmのSUS304ステンレス鋼板をSUS308溶接棒で多層盛り溶接し、溶接部からVノッチ標準シャルピー衝撃試験片を採取し、325〜425℃で最長10000hまで時効し、0℃での衝撃試験および硬度試験、組織観察およびメスバウアー効果測定を行った。 結果:メスバウアー効果による内部磁場測定でフェライトのスピノーダル分解が確認された。この相分離にともないビッカース硬度は時効前のHv=225から、350℃-10000h時効後のHV=285まで増加した。シャルピー衝撃値は時効前の73Jから425℃-5000h時効の41Jまで減少した。メスバウアー効果測定から求めた相分離の活性化エネルギー200kJ/molと,双曲線正接関数を用いて脆化寿命を予測した。シャルピー衝撃破断面およびその側面観察から、溶接部に存在するフェライト粒内あるいはフェライトとオーステナイトの界面に沿って破壊クラックが進展し、脆化の起源がフェライトの2相分離にあることがわかった。 総括:今年度の研究で、ステンレス鋼溶接部に存在するフェライトは熱時効によりスピノーダル分解し、それが原因で硬化と脆化が起こることがわかった。この経年変化の全体像に把握するためには、更に20000h(2年間)の時効が必要と予測される。
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