中性子補足療法は腫瘍に選択的に^<10>Bを集積させ、中性子を照射し、発生する核分裂エネルギーで腫瘍を破壊する治療法である。悪性黒色腫に選択的に^<10>Bを集積させるρ-ボロノフェニルアラニン(以下BPA)を用いて中性子補足療法が行われ成果をあげているが、さらに成果をあげるために^<10>B集積量の増加が期待されている。そのためには集積機構を解明し、それに基づいて腫瘍集積性化合物を合成することが重要である。本研究では、^<11>B-NMRを用いて、悪性黒色腫関連物質を含む生体試料とBPAの間の相互作用を調べ、BPA集積機構を解明し、さらに集積性の高い化合物を開発することを目的とした。^<11>B-NMR測定は現有するJEOLLA400NBを用いた。サンプル中の^<11>B濃度が低いため、数多くの集積を行う必要があるが、得られたスペクトルはベースラインが大きく歪み、BPAと悪性黒色腫関連物質の間で相互作用したときにできる錯体のピークを検出するのが難しい状況にあった。平成10年度にはこのベースラインの歪みをなくすことを試みた。^<11>Bを含まない水のスペクトルを測定し、^<11>Bを含む目的のサンプルのスペクトルから差し引くことにより、ベースラインの歪みの改善が見られた。この方法を用いて生体から取り出した悪性黒色腫関連物質とBPAの間で鎖形成を調べた。その結果、時間と共にBPAのピークが減少し、BPAが悪性黒色腫関連物質と錯形成した後に生じると考えられるホウ酸のピークが現れることが明らかとなリ、間接的にBPAと悪性黒色腫関連物質との相互作用が確認できた。平成11年度はBPAとメラニン前駆体であるチロシンとのジペプチドの合成を行った。悪性黒色腫ではメラニン生合成が活発化しており、その前駆体であるチロシンの取り込みが多いことにより、そのチロシンとBPAのジペプチドはBPAよりさらに悪性黒色腫に取り込まれることが期待できるからである。BPAもチロシンもアミノ酸でありD-体とL-体が存在するため、L-BPA-L-チロシン、L-BPA-D-チロシン、D-BPA-L-チロシン、D-BPA-D-チロシンの4種類の光学異性体を合成した。
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