高輝度低速陽電子ビームを生成するための、希ガス固体リモデレータの開発を行った。用いた希ガスはアルゴンである。高輝度低速用電子発生のリモデレータとしては、結晶性の良い固体であることが必要である。そこで、作成したアルゴンの結晶状態を評価するために、陽電子ビームを用いてSパラメータの測定を行った。Sパラメータとは消滅ガンマ線のドップラー拡がりのことで、一般に材料中に空孔があると、Sパラメータは大きく、逆に結晶性が良いと、小さくなる。 実験は、大阪大学産業化学研究所放射線実験所の、陽電子ビームラインを用いて行った。アルゴンの固体は冷凍機を用いて製作し、陽電子ビームの入射エネルギーを変化させ、深さ方向のSパラメータの測定を行った。アルゴン製作時のアルゴンの分圧、温度、製作時間を調整することにより結晶性や膜厚を制御した。その結果、Sパラメータの変化を検出し、結晶性や膜厚が変化した事を確認した。固体希ガスリモデレータを製作しつつ評価を行う方法が確立できたと言える。今後アニール等を行いリモデレータとして望ましい固体希ガスを製作するとともに、陽電子の再放出効率についての評価を行う。また陽電子寿命測定もあわせて行っていく。 また、実験による結晶性の評価と並行して、希ガス固体中の陽電子寿命を計算し、結晶性の評価を試みた。手法として、分子動力学を用いアルゴンのアモルファスを作製し、得られた原子配置から、陽電子波導関数、寿命を計算した。アルゴンのアモルファスの作成条件を変えることにより、体系内に存在する自由体積と、陽電子寿命の関係を得ることができた。この手法を利用することにより、固体アルゴンの陽電子寿命を測定することにより、結晶性の評価ができるようになった。今後実験と計算の対応について検討していく。
|