研究概要 |
一般環境の表面土壌(深さ5cmまで)中水銀のバックグラウンド濃度を把握する目的で,千葉県を中心に水銀非汚染地域において調査した。その結果,139試料中の水銀濃度は0.007〜0.82ppm,平均値は0.116ppmであった.この値は環境表面土壌中の現在の水銀バックグラウンドといえる。しかし,市街地地域の土壌中平均水銀濃度は0.144ppmであったが,非市街地地域の平均濃度は0.027ppmであり,土壌中の地球化学的水銀バッククラウンド値は累積度数分布から0.03ppmと見積もるのが妥当であった,市街地地域の土壌には人為的汚染による残留水銀が蓄積しているといえるが,その動態を実験的に調査した結果,ほとんどが安定な水銀化合物状態にあり,降雨などで溶脱する水銀種ではないことが分かった。土壌中の残留水銀化合物の水銀量は微量であるため,その形態を同定することが困難であるが,本研究室で考案した熱分解連続抽出法を用いて定性的に測定した結果,表面土壌中の水銀の形態はおもに硫化水銀,有機酸と結合した水銀種,塩化水銀および金属水銀であった.硫化水銀,有機酸と結合した水銀種および塩化水銀は100℃では気化しない水銀種であるが,土壌中水銀のうち100℃まで加熱して気化する水銀化合物は蒸発性水銀種といわれ,おもに金属水銀であり,その量は土壌中水銀含量の平均13%であった。このうち,最高気温を想定した40℃までに気化する水銀種は約2%であった、また,表面土壌ガス中の水銀濃度は大気中水銀濃度より常に高く,大気中水銀は採取した大気の周辺の土壌中水銀含量に反映していることが明らかであった.年間通しての測定では,各深部ごとの土壌ガス中の水銀濃度は気象条件や季節によってかなりの変動を示すものであったが,表面土壌から気化する平均水銀量は20ng/m^2・dayであり,大気中の水銀のおもな発生源となっていることが判明した。
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