本研究では、活発なメタン生成の場である自然湿地として、自然度の高い釧路湿原と人間活動の影響が大きい長良川河口域を研究対象としてメタンフラックスの測定と、その環境要因について調査を行った。釧路湿原において1998年7、8月の調査で、従来高いフラックスを示した低層湿原のメタンフラックスが低く(9^-10mg/m2/h)、ハンノキ林におけるフラックス(14^-17mg/m^2/h)が低層湿原を上回る結果となった。1999年8月には、従来データの蓄積が少なかったハンノキ林内での植生の異なるサイトを5ヶ所選定してフラックスを求めた。その結果、植生により2.4〜15mg/m^2/hの範囲でフラックスが得られ、高いフラックスは茎が中空のミズドクサを主体とする植生のサイトであることが明らかとなったまた、従来ヨシ植生の低層湿原から高いメタンフラックスが得られていたことからヨシの茎から抽出したメタンと、低層湿原で植生のない開水面で集めた気泡のメタンについて炭素安定同位体比(δ^<13>C)を分析した結果、前者が-55.1±0.8パーミル、後者が-59.8±0.8パーミルであった。このことからヨシの茎からのメタンは酢酸からのメタン生成過程が卓越し、開水面の気泡メタンは二酸化炭素と水素による生成過程が卓越していることが示唆された。 一方、長良川下流域においては、河口より3km、6km(河口堰直上流)、及び23km地点で1999年7月にメタンフラックスを測定した結果、最上流域で0.6μg/m^2/h、堰直上流域で1.7mg/m^2/hが得られ、最下流の汽水域ではメタン発生は認められなかった。河口堰による河川の止水化、河口生態系の淡水化によるメタンフラックスの増加が確認された。 以上の結果、自然度の高い湿地においては植生がメタンフラックスを大きく支配していること、人間活動の影響が大きい所では特に物理的な環境改変による場の構造変化がメタンフラックスを変化させていることが明らかとなった。
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