研究概要 |
本年度は、SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)/UV/ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)システムで測定可能な2種類の天然水中溶存高分子有機物-金属錯体(LOMMCs)の化学的特性を評価した。まずLOMMCsの酸に対する安定性を検討する目的で、限外ろ過濃縮(20倍)した池水試料(pH7)に硝酸を添加してpHを7〜0.5までの13の試料溶液を作製し、SEC/UV/ICP-MSシステムで測定した。試料のpHが7から減少するにつれてUV検出クロマトグラム上のPeak1とPeak2のピーク強度はともに徐々に減少し、pH0.5では観察されなくなった。これはLOMMCsの有機物が酸により分解したためと考えられる。そこで、ピーク面積の減少割合をpH7の試料を1とした相対面積強度として示し、LOMMCsの酸分解特性を比較した。Peak1成分では試料のpHが4以下になると急激に分解するのに対し、Peak2成分は試料のpHが7〜0.5に低下するにつれて徐々に分解が進行した。次にFe,Alの水酸化コロイドの解離曲線を求め、LOMMCsの分解曲線と比較したところ、Peak1成分の減少曲線と水酸化コロイドの解離曲線はよく一致した。このことから、Peak1成分中の主要化学形態はFe,Alの水酸化物を主成分として、周囲に金属イオンと有機物が結合して形成された"糸巻きボール"状の複合コロイド状物質であると考えた。この物質は徐々にサイズ成長し、やがては粒子態物質となり堆積物へと沈降して天然水中から微量金属を除去する物質になると考えられる。一方、Peak2成分の有機物については、CuとZnの酸解離特性が異なり、Cuの方がZnよりも錯体との結合力が強かった。このため、Peak2成分中の主要形態は、生物由来の高分子有機物(フミン酸、タンパク質など)の錯体と予測される。このような有機錯体は天然水中で比較的安定であり、生体必須元素のような生物学的利用能の高い遷移金属を水中に保持する役割を果たしていると考えられる。
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