塩素化ナフタレン(PCNs)は、近年、外因性内分泌撹乱化学物質として注目されているダイオキシン類やPCBsと同様の生体影響が懸念されている。しかしながら、その発生源、環境中のレベルおよび動態に関する情報は不足している。 そこで本研究では、環境中のPCNs汚染を評価するための微量分析法を確立し、主要な給源と考えられるハロワックス製剤(PCNsを主成分として含む)及び焼却灰について検討した。組立てた分析法の概略は、焼却灰試料の場合、希塩酸と混合・静置後、室温で乾燥させトルエンを用いソックスレー抽出を行った。次に得られたトルエン溶液を少量に濃縮し、大容量のヘキサンに再溶解し、その溶液について濃硫酸処理を行い妨害物を除去した。さらにシリカゲルとアルミナを充填剤として用いるカラムクロマトグラフィーにより妨害物を分離・除去した。なお分析機器としては高分解能ガスクロマトグラフ/高分解能質量分析計を用いた。本分析法によるPCNsの回収率は良好であった。環境中に残留しているPCNsの給源の一つとして燃焼生成が考えられる。そこで上記に示した分析法を用い焼却施設より得た焼却残灰及び飛灰についてPCNsとダイオキシン類の濃度を明らかにした。その結果、PCNsはそれら試料より検出され、燃焼生成していることが示唆された。その生成量は、ダイオキシン類と同レベルかあるいはそれ以上であった。次に、ハロワックス製剤と焼却灰中のPCNs異性体を詳細に比較検討したところ両者に違いが見られ、前者はα位置換体、後者ではβ位置換体が優占していた。特に、両者間におけるこのような特徴的な異性体組成を指標としてハロワックス製剤起源と燃焼起源の寄与の見積が可能であることが示唆された。
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