塩素化ナフタレン(PCNs)は、近年、外因性内分泌撹乱化学物質として注目されているダイオキシン類と同様の生体影響が懸念されている。しかし、その発生源、環境中のレベルおよび動態に関する情報は不足している。そこで本研究では、環境試料の微量分析法を確立し、今日の我が国の環境汚染の状況を解明し、環境汚染物質としての評価を行った。まず環境中の最大のシンクと考えられる土壌・底質について検討したところ、分析した全ての試料からPCDDs/DFsとともにPCNsが検出され、PCNsによる広範囲な土壌汚染が明らかとなった。PCNsの残留組成パターンは、大きく山間地・都市土壌タイプと水田土壌タイプの二つに大別された。即ち山間地、都市土壌では5塩素置換体が、水田土壌では4塩素置換体が優占していた。また河川底質中のPCNs組成は水田土壌における組成とほぼ一致した。PCNs汚染給源に関する検討の結果、山間地においては燃焼過程が汚染給源として寄与しているのに対し、市街地など人的活動の影響が大きい地域では、燃焼過程以外の給源も寄与していることが推定された。さらに愛媛県と大阪府下のヒトの脂肪組織を用い検討した結果、いずれの試料からも検出され、特に検出濃度は大阪試料が比較的高い傾向が見られた。特に高濃度の同族体・異性体として4〜6塩素置換体が検出された。また毒性影響を評価するために、Giesyらによって提唱されているPCNsの毒性等価換算係数を用いて毒性等量値を求め、PCDDs/DFsのそれと比較検討したところ、PCNsはPCDDs/DFsの数%であり、PCNsの今日の土壌残留濃度はPCDDs/DFsの毒性的なインパクトに比較して低いということが結論づけられた。
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