研究概要 |
海洋に生息する多くの無セキツイ動物はその体内に金属元素を特異的に濃縮することが知られているが、その詳細は明らかになっていない。本研究では数種類の無セキツイ動物の正常値を得ること、それらの正常値への海洋環境の影響を明らかにすることを目的にした。国内14ケ所から入手した23種の生物種の軟体部を主に光量子放射化分析法と中性子放射化分析法の二法で分析し、Ag,As,Br,Ca,Co,Cr,Cu,Fe,I,Mg,Mn,Mo,Na,Ni,Pb,Rb,Se,Sn,Sr,Znの20元素の濃度より以下の点が明らかになった。 検討した生物種軟体部の共通点として、MgおよびRbの濃度は生物種や部位によらず各々10^3-10^4、1-10μg/gDW(乾燥重量)であった。Asの濃度範囲も狭いが、それ以外の元素濃度は2桁から3桁の幅を示した。同一海域の同一生物種で大きな個体差を示したものとして、ばかがい軟体部(Mn,Fe,Ca,Sr)、うに生殖腺(Ca,Cu,Fe,Mg,Mn,Na,Sr,Zn)があげられる。これらは性差に起因するものと思われる。同一種の生物で生息地域に起因すると思われる差異はアワビ中腸腺(Ni)イセエビエラ(As,Br,Ca,Fe,Rb,Se)、肝すい腺(Ag,Ca,Se)に見られた。これらの事より、アワビ、イワガキ、イセエビ、シャコエビなどのように、海底や岩礁に生息する生物種が環境の影響を受けやすいと思われる。今後、さらに異なる生息海域から採取されたアワビ、イワガキなどについて分析値を求めていきたい。また、イセエビにはおよそ100μg/gDW程度の非常に高濃度のヒ素が含まれていたり、イワガキやホタテガイの外套膜には数μg/gDWのAgが検出された。イセエビの高濃度のヒ素は海藻由来であると思われ、食物連鎖のなかでのヒ素の代謝と移動についての検討を行いたい。また生物体中のAgについての知見はほとんどみられないので、存在化学形や役割について検討していきたい。
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