A-T(アタキシア・テランジェクタシア)は放射線高感受性のヒト遺伝病で、原因遺伝子は11番染色体q22.3領域から単離されたATM遺伝子である.本研究はA-T患者やヒト腫瘍細胞株で見られるATM遺伝子の突然変異の特性を調べてその放射線感受性形質との関連を調べるとともに、ATMと構造的な相同性を示す遺伝子の中から細胞の放射線感受性に関係する新しい遺伝子を同定することを目的とする.研究初年度にあたる今年度は、A-T患者とヒト腫瘍細胞株で見られるATM突然変異を解析しその特徴を明らかにすることに重点をおいた.解析対象としてA-T患者とヒトの固形腫瘍から樹立した細胞株を用いた.突然変異の検出と同定には、制限酵素フィンガープリント(REF)法とPCR-SSCP法を用いた.REF法はRT-PCRで得たcDM断片を制限酵素(Hinfl、Ddelなど)で切断後アクリルアミドゲル上で解析するもので比較的大きな欠失などの検出に用い、塩基置換変異などの検出にはPCR-SSCP法を用いた.8家系に属する10人の日本人A-T患者の全16アレルの突然変異が同定できた.12アレルの変異はREF法で、残り4アレルの変異はPCR-SSCP法で検出できた.エクソン欠失、微小欠失によるフレームシフト、並びにナンセンス型の塩基置換変異が大半を占め、A-Tの病因には機能喪失型の変異が優勢であることを示唆した.またエクソン33(4612del165)とエクソン55(7883del5)での突然変異は日本人患者の約半数を占める創始者効果突然変異(founder-effect mutation)であることが判った.大腸癌、網膜芽細胞腫などを含む25系のヒト腫瘍細胞株においてはA-T患者のような機能喪失型の変異は見られなかった.ミスマッチ修復欠損の大腸癌細胞株ではエクソン近傍の単一塩基リピートに欠失があり、エクソン12とエクソン22においてはこれに起因する異常mRNAの発現が見られ、現在放射線感受性との関連を解析中である.
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