研究概要 |
ATM遺伝子は放射線高感受性を特徴とするヒト遺伝病アタキシア・テランジェクタシア(A-T)の原因遺伝子であり代表的なヒトの放射線感受性遺伝子である。本研究の第2年目にあたる本年度は、ATM遺伝子の突然変異がヒトの体細胞で生起し、それが発がんや放射線高感受性に関わる場合があるかどうかを検討するため、ヒトの腫瘍細胞株を用いてATMおよびその関連遺伝子について変異解析を行った。大腸癌、骨肉腫などヒトの腫瘍細胞株25系のDNAを用い、PCR-SSCP法でATMの突然変異を検索した。25系中16系の細胞株で異常が検出されたが、A-T患者にみられるようなノンセンス変異、フレームシフト変異はみられなかった。イントロン上の単一ヌクレオチド反復における欠失がもっとも高頻度にみられ全変異の62%を占めたが、マイクロサテライト不安定性を特徴とする大腸癌においてのみ特異的であった。イントロン上の欠失は転写産物にも影響し、とくにエクソン8と12では異常な転写産物(497del22,1236del372)が認められた。ATM遺伝子のイントロンの反復配列が腫瘍細胞の遺伝的不安定性の標的のひとつとなっており、こうした体細胞における二次的な変異がATMの遺伝子発現や細胞の放射線感受性に影響しうる可能性を示唆する結果である。ATM以外にも、酵母の細胞周期制御遺伝子のヒトホモログとして同定されたいくつかの遺伝子(HRAD1,HRAD9,HRAD17,HHUS1,CHK1,CHES1)についても腫瘍細胞株における変異解析を行った。これらの遺伝子を不活性化するような変異は検出されなかったが、いくつかのミスセンス変異が検出され、とくにHRAD17における変異は酵母から霊長類に至るまで保存されている部位のアミノ酸置換をともなう点で注目され解析を続行中である。経費は突然変異解析のための薬品、PCRプライマー、ヒトDNA、ヒト/マウス雑種細胞などに用いた。
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