ATM遺伝子は放射線高感受性を特徴とするヒト遺伝病アタキシア・テランジェクシア(A-T)の原因遺伝子であり代表的なヒトの放射線感受性遺伝子である。本研究の最終年度にあたる本年度は、ATM遺伝子と類似した構造あるいは機能をもつヒト遺伝子が他にあるかどうかを検討する実験をおこなった。ATMのcDNAをプローブにし、ヒト、マウス並びにヒト11番染色体を1本含むヒト/マウス雑種細胞のDNAをサザンブロットで解析したところ、マウスや雑種細胞では見られないのに、ヒトDNAにおいてだけ見られるバンドがいくつかみとめられた。これらは、11番染色体以外に存在する、ATMの類縁配列であると考えられた。こうしたバンドのうち、ATMの5′末端寄り(ヌクレオチド2414〜5433)のcDNAと交雑する5.5kbのEcoRI断片に着目した。これはヒト7番染色体に座位することがわかったので、7番染色体特異的ゲノムライブラリーをスクリーニングして約5.5kbのクローン(p7LA5.5と命名)を得て塩基配列を決定した。p7LA5.5は、5442bpの塩基から成り、ヌクレオチド2806〜3260にATMのエクソン30周辺と相同の領域を含んでいた。CENSORプログラムで解析した結果、それ以外の領域はLINE-1反復配列のクラスターであった。片端にポリA配列、両端に同じ繰り返し配列を持っていることから、これはエクソン30を含んだ約450bpのATMの一部分がレトロトランスポゾン様の機構で11番から7番染色体に転移したものと考えられた。線維芽細胞での遺伝子発現はみとめられなかったがコード領域にノンセンス変異はなく、組織特異的に未知の遺伝子の一部として発現している可能性は否定できない。今回と同様の解析をさらに別の類縁配列についての行うことにより、ATMの一部とモチーフを共有する新しい機能遺伝子を同定できる可能性がある。経費は細胞、類縁配列解析のための薬品、解析機器部品並びに報告書印刷に用いた。
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