研究概要 |
ATM遺伝子は放射線高感受性を特徴とするヒト遺伝病アタキシア・テランジェクタシア(A-T)の原因遺伝子で、代表的なヒトの放射線感受性遺伝子である。本研究はこのATM遺伝子上の突然変異の特性解析を中心課題とし、どのような変異がA-T疾患の原因となるのか、非A-T患者の体細胞でも変異が生ずるのか、生ずるとすればその頻度と特徴はどのようなものかという点を検討した。まず患者における病因変異を日本人のA-T患者10名(8家系)を対象にして、制限酵素フィンガープリント法とPCR-SSCP法とを用いて行い16の全アレルの変異を同定した。変異はエクソン欠失、フレームシフトなどの機能喪失型変異であった。次に25種のヒトがん細胞株を対象にATMの体細胞変異を調べた。変異頻度は高かったがそのタイプは病因変異とは明らかに異なり、機能喪失型変異は認められなかった。大腸がん細胞株の中には、イントロン反復配列の欠失がスプライシングに影響して異常な転写産物の原因となっている例が見いだされた。エクソン配列だけではなくイントロン配列もまたがん細胞のゲノム(マイクロサテライト)不安定性の機能的な標的になることを示唆する新しい知見である。ヒトがん細胞株を用いた変異解析をさらに6個のATM関連遺伝子(hRAD1,hRAD9,hRAD17,hHUS1,CHK1,CHES1)についても行ったが変異頻度は低かった。注目されるのはhRAD17遺伝子におけるアミノ酸置換を伴う単一ヌクレオチド多型で、その集団頻度と発がん感受性との関連を調べる必要がある。ATMcDNAをプローブにしたサザンブロット解析から、11番染色体以外に存在するいくつかのATM類縁配列をみとめた。そのうちのひとつである7番染色体上の類縁配列はATMエクソン30周辺と相同で、レトロトランスポゾン様の機構で11番染色体から転移したと推測され、発現解析は今後の課題である。同様の解析を他の類縁配列についても行うことにより、ATMとモチーフを共有する新しい機能遺伝子を同定できる可能性がある。
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