研究概要 |
ショウジョウバエ1令幼虫を受精卵から寒天だけでできている培地で約24時間培養することで用意すると、紫外線を吸収する物質が少ないため幼虫は透明で紫外線Cが透過しやすくなる。このような幼虫に紫外線Cを照射し成虫になるまで飼育すると、除去修復欠損変異株(mei9^<RT2>)はその正常株に比べて致死(幼虫数に対する成虫数の割合)および背板の奇形頻度が約10倍高感受性であった。これら1令幼虫に光回復処理をおこなうと致死、奇形ともほぼ100%回復した。また光回復欠損変異(ピリミジンダイマー光回復酵素欠損:phr^-/phr^-)株の1令幼虫は光回復しない。このことは致死、奇形を誘発する紫外線によるDNA損傷が主に、ピリミジンダイマーであると示唆される。 ハエは紫外線損傷の主因であるピリミジンダイマー(CPD)と64光産物(64photoproduct)に対しそれぞれ光回復酵素(CPD photolyase,64photolyase)をもっており、1令幼虫に多量に存在すること、さらにこれらの酵素は雌成虫の卵巣に由来することが分子生物学的方法でわかっている。このことが幼虫の生体でどのように反映されるかを紫外線による致死への光回復を調べることで検討した。交配A:母親phr^-/phr^-x父親phr^+/phr^-、交配B:母親phr^+/phr^-x父親phr^-/phr^-からの1令幼虫を用意する。交配Aからのphr^-/phr^-幼虫は遺伝子形が光回復欠損であるにもかかわらずphr^+/phr^-幼虫同様に光回復したが、交配Bからのphr^-/phr^-幼虫は光回復しなかった。また交配Bからのphr^+/phr^-幼虫は紫外線高線量域で交配Aからのものより光回復の割合は減少していた。このことは、幼虫の光回復はmaternal由来の酵素量で充分光回復すること、またzygotic由来の酵素でもDNA損傷が少なければ充分であることを示している。ヘテロ(phr^+/phr^-) 1令幼虫の母親をphr^+/phr^+にしたとき、gel shift法により検出したCPD photolyaseの量はphr^+/phr^+幼虫のそれと同量であったが、母親をphr^-/phr^-にしたときはわずかにしか検出されなかった。生物学的方法による結果と一致しないが、少量の酵素でも酵素が再利用されるのに充分な時間さえあれば回復可能であることが示された。
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