酸素過剰状態による酸化的ストレス下に対するラジカル捕捉剤、N-tert-butyl-α-phenylnitrone(PBN)の影響を調べる目的でNOを測定して検討した。 その結果、正常な大気中で飼育されたマウスに比べて3日間高酸素状態(酸素流量2l/min)におかれたマウスの血中、尿中、脳におけるNO(一酸化窒素)濃度は、有意に増加した。これは、高い酸素濃度によって増加した活性酸素の傷害で血管が収縮した結果、血管弛緩作用によりNOが放出されたためであると考えられた。また、このNOの増加は、NOS inhibitor(NO合成酵素阻害剤)の投与によって阻害された。しかし、この酸素過剰状態におかれたマウスにラジカル捕捉剤であるPBNを投与した場合では、NO_2の増加は血中では見られず、逆に正常の大気中で飼育した場合のNO_2量まで低下したことから、PBNは過剰の酸素によって発生した活性酸素などに対する抗酸化剤の効果をあらわした。PBNはLPSで誘導した場合にNOSの遺伝子発現を抑制することが報告され、レドックスを制御する転写因子、NFκBに影響を与えることが示唆されている。従って、本実験における過酸化状態による抗酸化ストレスではPBNは細胞内の酸化還元を調節するレドックス制御機構に作用し、シグナル伝達機構に関与していることが考えられた。また、酸化的ストレスによってPBNから放出されたNOが中枢神経に作用しその結果として、NFκBの制御をしている可能性も考えられた。これらの結果から、PBNは抗酸化作用を示して生体を防御する働きをしていることが確認された。さらに、EST法によってNOを直接検出するために、NO捕捉剤であるFe(DETC)_2を用いた同様の実験を試みた。液体窒素で試料を凍結した状態で、ESRの測定を行うことによりマウスの肝臓のNOの検出に成功した。この方法によって高酸素状態においたマウスの肝臓からは過剰のNOの生成を確認し、PBNの投与でこの生成は抑制されることがわかった。 以上の結果から、PBNはNO供与体としての働きを有するとともに、急性的な活性酸素の増加による酸化的ストレス下においては、抗酸化作用を示して生体を防御して生理作用を制御する働きをすることが明らかとなった。今後、酸化的ストレス下におけるPBNの作用機序についてされに検討したい。
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