デイーゼルエンジン車の排気粒子(DEP)は、気管支喘息や肺癌などの呼吸器疾患の発症に関わっていることが指摘されている。申請者は、これまで、DEPの生体に対する影響を明らかにすることを目的として研究を進め、その過程において、DEPが化学反応によって活性酸素を生成すること、更に活性酸素分解に関与する酵素の活性を阻害し、活性酸素の生成と分解阻害の二つの機構によって生体に障害を与える可能性を示唆した。補体は血清中に存在する蛋白質の系であり、感染に対する生体防御因子の一つである。しかし、補体の活性化は、白血球遊走を引き起こし、炎症の原因となる場合がある。平成10年度においては、1)DEP中の活性酸素生成因子の分離・同定、2)DEP抽出液による補体活性化機構の解析、3)DEP抽出液の細胞障害作用の三つの課題について研究が進められた。その結果、1)の課題においては、有機溶媒を用いるDEP成分の抽出、分離分析の方法が確立され、DEPのへキサン抽出液中に活性酸素を生成する因子、アントラキノン、アントラキノン-2カルボン酸の2種類の化合物が存在することを明らかにした。これらの分子がDEPの活性酸素生成に寄与する割合が推定された。2)の課題においては、DEPの緩衝液抽出液がヒト補体の第二経路を活性化することを見いだした。この現象は補体蛋白質を用いる実験で確認された。3)の課題は、CHO-K1とA549の2種類の培養細胞を用いて実験が行われた。その結果、DEPのへキサン、ベンゼン、ジクロロメタン抽出液には、強い細胞障害活性があり、その活性の一部は、活性酸素生成に起因する結果を得た。1)、3)の課題の結果は、日本薬学会119年回(1999)で報告される。2)の課題の結果は、すでに論文として掲載されている。
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