集団中の遺伝的変異は集団が人為的環境ストレスにどれだけ適応できるかを決める要因となる。集団内の変異の維持は、変異の供給源の存在や、集団サイズそのものによっても影響を受ける。本研究では、人為的な環境ストレスとして除草剤を選び、これに高濃度に暴露される水田藻類であるミカヅキモ集団内の変異の程度を、アロザイムや除草剤ストレスの有無などから検討することを目的とした。まず微細藻類群集が除草剤の影響を受けて耐性群集に変化する事実を、実験水田を用いた研究で確認した。比較的大きなストレスのかかる水田では、耐性群集への移行が種組成の変化だけではなく、耐性系統への入れ替わりによっても起こることが確認された。琉球諸島には、除草剤を使用する水田と、放棄水田や低層湿地など、除草剤の影響が及ばない環境とが数多く残されていた。ここから採取したミカヅキモの遺伝的変異を調べることによって、除草剤ストレスが遺伝的多様性に与える影響を推測することができた。現在ではほとんど水田耕作が行われておらず、ミカヅキモにとって好適な生息場はほとんどが放棄された湿地状態になっている沖縄本島の集団には中立遺伝子の変異が残されており、除草剤による集団サイズの縮小や選択がおこらなかった集団であると考えられた。一方、八重諸島では、現在でも盛んに水田耕作が行われており、除草剤を用いた水田管理が行われていた。このような水田に生息した集団はアロザイム変異が見られず、除草剤によって選択された集団である可能性を示唆した。この様に、除草剤ストレスが集団の遺伝的変異を減少させている可能性が示された。また、アロザイム変異だけでは集団内の変異の検出に限界があることがわかり、より多くの集団内変異を検出する手法としてマイクロサテライト変異を利用するため、そのプライマーの開発を試み、その手法を検討した。
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