研究概要 |
1997年1月に日本海で座礁したロシアのタンカー「ナホトカ号」から流出した重油が漂着し日本海の海岸線を汚染した。重油には種々の変異原性化合物が含まれ、その地域の魚介類や生態系への影響は深刻である。筆者は自動車排ガス等に含まれる4環以上の高分子量多環芳香族炭化水素(H-PAHs)による汚染土壌のバイオレメディエーションを目的に研究を進めてきたが、本事故をきっかけに重油中のPAHsの分解に着手した。1994年にピレン資化性細菌として分離されたMycobacterium sp.H2-5株を用いて実験を行い、以下の結果を得た。 重油試料としては、福井県三国町で事故から2週間後に採取した漂着重油と市販C重油を用いた。H2-5株をピレンを唯一の炭素源として含む培地で培養し、集菌・洗浄後、重油を塗布したガラスビーズを入れたL字管に無機培地と共に加えて、30℃,20日間培養を行った。培養物をシクロヘキサンで抽出した後、ジメチルスルフォキシドにPAHsを移し、HPLC分析を行って微生物処理による各種PAHsの減少を測定した。また、それぞれの重油中のベンツ(a)アントラセン、ピレン、ベンゾ(a)ピレン、ベンゾ(ghi)ペリレンは、漂着重油1mg中にそれぞれ126,202,40,262ng、また、市販C重油1mg中にそれぞれ638,96,63,256ng検出された。上記の微生物処理により、漂着重油中のPAHsはそれぞれ、99%、92%、60%、33%減少し、市販C重油中のPAHsの減少は、それぞれ、92%、99%、60%、10%であった。両重油試料の間では、H2-5株による各PAHsの減少に大きな差は認められず、2週間の漂流中に微生物分解を大幅に妨げるような物質の生成はなかったと考えられた。
|