京都府久美浜町箱石の海岸砂丘に生息する単独性カリバチの1種、キオビベッコウ(Batozonellusannulatus:ベッコウバチ科)とその主要な餌であるナガコガネグモ(Argiopebruennichii;コガネグモ科)の餌-捕食者系を対象に、保全生物学のモデルとなるデータを得ることを目的とした研究を行なった。砂地を営巣地とするハチは、砂地をとりまく植生帯に分布するコガネグモ科のクモを餌とするため、営巣地とクモの生息場所を往復する中心場所採餌を行っている。 (1) 1998年6月から9月にかけて、営巣地から100m遠方までのナガコガネグモの空間分布を調査した。その結果、ハチの活動が始まる6.7月にはクモは営巣地近傍にも分布していたが、狩猟活動がさかんになる8月後半になると、営巣地から約50mの範囲の近傍ではほとんど消失することがわかった。営巣地の近傍と遠方で標識したクモを放逐した実験は、この減少がキオピベッコウによる狩猟活動の結果であることを裏付けるものだった。したがって、キオビベッコウが営巣地近傍の餌資源をほぼ枯渇させるまで利用すること、またこの調査地でのキオピベッコウ個体群が少なくとも数年間はそれほど大きな変動もなく存続していることと初期のナガコガネグモの空間分布から、何らかのかたちで営巣地近傍へのナガコガネグモの移入が生じており、それによってハチ個体群が維持されていることが示唆された。 (2) キオビベッコウの狩猟による営巣地近傍でのナガコガネグモの密度低下が植食性昆虫および潜在的競争者(他のクモ)に影響を与えているかどうかを検討するため、営巣地近傍と遠方で、海岸植生に優占するハマゴウの葉の食痕面積とジョロウグモの密度変化を調べたが、いずれも有意な差は検出されなかった。
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