京都府久美浜町箱石の海岸砂丘に生息する単独性カリバチ、キオビベッコウ(Batozonellus annulatus:ベッコウバチ料)とその主要な餌であるナガコガネグモ(Argiope bruennichii:コガネグモ科)の餌-捕食者系を主軸に、保全生物学のモデルとなるデータを得る目的で野外研究を行った。露出した砂地を営巣場所として利用するハチは、そこを中心場所として、周囲の砂丘上の植生帯から狩猟したクモを運んでくる。2年間にわたるクモの空間分布の調査結果は、ハチの活動期間中に、狩猟可能なサイズに達した個体が営巣場所の50m圏内でまったくみられなくなるか、あるいはごく低密度になることを示した。クモの放逐実験や狩猟個体数の推定から、このクモの低密度化にはハチの狩猟が大きく頁献しているものと推察された。一方、それ以遠の場所ではクモは比較的高い密度を維持しており、キオビベッコウの営巣個体群が長期にわたって存続するには、遠方から近傍へのクモの移入によって餌資源が補充される必要があることが示唆された。したがって、餌資源の枯渇をまねきやすい中心場所採餌者では、中心場所となる物理的構造とその周縁の採餌空間だけでなく、餌資源の回復を可能とするさらにその外縁のソース個体群の保全を視野に入れる必要がある。また、ハチの狩猟こよるクモの低密度化がもたらす影響を、クモの捕食量減少を通じて生じる栄養カスケード効果とクモ網の存在を通じて生じる形質介在効果の両側面から調査した。ハマゴウ葉への食害量をクモの低密度域と高密度域で比較したが、一貫した差はみられなかった。しかし、クモと網を除去した実験区では、対照区や網を残してクモだけを除去した実験区に比べ、チョウ目昆虫やハチ目昆虫の飛翔頻度が低下し、クモの網がこれらの行動を変化させている可能性があることが示唆された。このような形質介在効果が海岸砂丘の生物群集に与える影響について議論した。
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