ニホンカモシカの個体群動態に及ぼす食物条件の影響を解析するため、青森県下北半島と山形県朝日においてレンジサイズと食物量についての調査を実施し、下記1.2の結果を得た。これらの結果より、レンジサイズの小さい下北半島はレンジサイズの大きい朝日と比較して、食物条件がより好適であることが示唆された。 1.識別個体のこれまでの観察資料に基づき、両地域における年間のレンジサイズを明らかにした。下北半島では、成メスが10.5±3.6ha(n=22)、成オスが16.6±6.2ha、朝日では成メスが29.8±13.7ha(n=5)、成オスが45.0±15.6ha(n=5)であり(いずれも平均値±SD)、レンジサイズは下北半島の方が小さかった。 2.食物条件及び採食効率を明らかにするため、雪上の足跡をたどり、単位移動距離当たりの食物供給量(低木類の根本断面積)と採食量(枝先の食痕数)を調査した。調査は足跡10mを1単位(本)とし、両地域において各40本実施した。下北半島と朝日における10m^2当たりの低木類の本数は35.7±16.6本と14.4±6.1本、根本断面積合計は1871.4±1260.4mm^2と1236.2±670.3mm^2食痕数は59.1±36.6個と38.2±33.9個であり(いずれも平均値±SD)、朝日よりも下北半島の方が食物条件がよかった。
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