ニホンカモシカの個体群動態に及ぼす食物条件の影響を解析するため、青森県下北半島の脇野沢村において下記の2項目の調査を実施した。 1)森林植生に対するカモシカの採食圧を明らかにするために初年度(1998年)に設定した試験区(2×2mの柵試験区と同面積の無柵試験区(対照区)5組)において、柵設置2年後の追跡調査を行った。調査は、樹高と冬芽数を毎木調査した。データは現在、とりまとめ中である。 2)1976年から継続観察している識別個体の繁殖成功率をとりまとめ、各個体のなわばりの質という観点より、繁殖率と生息環境の関係を検討した。その結果、繁殖成功率はなわばりの位置によって差異が認められ、メスカモシカの繁殖成功はその個体が保持しているなわばりの質によって左右されていると考えられた。裏付け資料として、主要食物である低木類の量を、繁殖成功率が最も高かったなわばりと最も低かったなわばりとで比較したところ、採食対象全種の単位面積当たりの食物量では2.0倍の、採食主要5種の食物量では同じく3.9倍の違いがあった。また、各メスの糞中窒素量とその個体がなわばりを保持しているエリアの平均繁殖成功率との間に相関関係が認められた。
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