研究概要 |
青森県下北半島で下記の結果を得た.3.は下北半島と山形県朝日の比較調査である。 1.採食行動の直接観察により,年間を通しての食性を明らかにした.カモシカは114種の植物と菌類1種を食した.落葉広葉樹の葉や枝先を最も多く食し,採食割合は54.8-58.3%(秋)から94.5-95.0%(冬)を占めた.次いで,春〜秋に広葉草本を多く食した(16.5〜39.1%). 2.各季節の食物および糞中の窒素(タンパク質)含有率を測定し,栄養摂取レベルの季節変動を明らかにした.春〜秋の食物タンパク質含有率は15.8〜20.9%,冬は7.8%であった.このタンパク質摂取レベルは,春〜秋は野生反芻類における最大成長要求量を,冬には体維持要求量を,それぞれ満たしていた. 3.食物条件と採食効率を明らかにするため,冬期の単位移動距離当たりの食物供給量(低木類の根本断面積)と採食量(枝先の食痕数)を調査した.成獣メスの平均なわばりサイズは,下北で10.5ha,朝日で30.9haと朝日で大きい一方,朝日の食物供給量は下北の66.1%であった.すなわち,なわばりサイズと食物量には逆相関関係が認められた.ただし,両地域間で糞中窒素含有率に示される栄養摂取レベルに差異は認められなかった. 4.過去24年間のなわばり個体の動向をとりまとめた.なわばりサイズと成獣密度は逆相関関係にあり,3.の結果と合わせ,食物量がなわばりサイズに影響を与えることによって成獣密度を規定していることが強く示唆された. 5.森林植生に対するカモシカの採食圧を明らかにするため,試験区(2×2mの柵試験区と同面積の無柵試験区を5組)を設定した.2年間の調査によれば,カモシカの採食圧の影響は,オオバクロモジの伸長生長,冬芽総数,冬芽の層別構造において認められた.
|