本研究では、植物二次代謝のエンジニアリングのための遺伝子ツールとして、酵母の一次代謝に属するユビキノン生合成酵素prenyltransferase(PT)の遺伝子、coq2をPCRにより増幅した。ムラサキのシコニン生合成経路には本酵素と同様PHBとprenyldiphosphateを基質とする反応があり、これを酵母遺伝子coq2に行わせることで二次代謝の改変を試みた。単離したcoq2のDNA配列を植物用に改変し、以下の4種のバイナリー・ベクターを完成した:1)coq2全長(ミトコンドリア局在型)、2)△coq2(細胞質局在型)、3)coq2-ER1(2にER-配向シグナルを付加)、4)coq2-ER2(3にER保持シグナルを加えたER局在型)。これらを組込んだベクターをAgrobacterium tumefacienseおよびA.rhizogenesに導入し、それぞれ前者は対照であるタバコの、後者はムラサキの形質転換に用いた。現在まで各コンストラクトに対して、ハイグロマイシン耐性を示す形質転換タバコ植物体が7〜15クローン得られている。これら植物のゲノムにおいて、各導入遺伝子が存在していることをPCRにより確認し、さらにNorthern blotによりそれらの発現レベルを検定した。mRNAレベルの高かった形質転換体におけるPT活性を測定したところ、coq2-ER2以外では高い酵素活性が認められなかった。そこで、ムラサキにはcoq2-ER2のみを導入することにした。Cq2-ER2を発現しているムラサキ毛状根では、PT産物であるm-garanyl-p-hydroxybenzoic acidの過剰産生とベンゾフラン誘導体の蓄積上昇が認められたが、シコニン含量に大きな影響はなかった。これはプレニル化以降の生合成に別の律速段階があることを示唆する。また、側鎖長の異なるキノン誘導体も現在のところ検出されていない。これより、高効率のメタボリック・エンジニアリングにはムラサキ内在のgeranyltransferaseの解析も必須と考え、本cDNAのクローニングをも行った。
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