研究概要 |
グルタチオン生合成の律速酵素であるγグルタミルシステイン合成酵素(γ-GCS)を特異的に阻害する化合物を論理的に設計することを目的に研究を行った。γ-GCSの反応機構をふまえ、その遷移状態アナログとなるスルホキシミン誘導体がきわめて強力な阻害剤として作用し、スルホキシミンのS=NH窒素が酵素の活性中心でATPによるリン酸化を受けて酵素を阻害することをつきとめた。そこで、スルホキシミン誘導体のキラルなイオウ原子に由来する2種のジアステレオマー1a,1bをEvansのキラルオキサゾリジンを用いる不斉アルドール反応を用いて不斉合成したところ、R配置のイオウ原子をもつ1aのみがATP依存性のきわめて強い阻害活性(Ki=39nM)を示したのに対し、S配置のイオウ原子を持つ1bは可逆的で弱い阻害活性しか示さなかった。すなわち、酵素はイオウ原子上のキラリティーを厳密に認識し、R配置のスルホキシミンにのみリン酸化が行なわれているものと思われる。強力な阻害活性を示した1aは、本酵素の阻害剤として有名なブチオニンスルホキシミンの1000倍以上の阻害活性を有するきわめて有望な化合物である。一方、本酵素の触媒作用を受けることにより活性化し、酵素と共有結合を形成し酵素を不可逆的に失活させる化合物(自殺基質)として、L-グルタミン酸-γ-ヒドロキサム酸2を見いだし、その阻害活性を反応機構の観点から詳細に調べた。ヒドロキサム酸2は、ゆっくりとではあるが、ATPの存在下で酵素を完全に失活させ、活性の回復は全く見られなかった。酵素の失活はATPの存在下でのみ起こること、類似の構造をもつL-アスパラギン酸-ヒドロキサム酸ではまったく失活が見られないことなどから、ヒドロキサム酸2が酵素によるリン酸化を受け、Rossen転位様の反応を起こしてイソシアナートを生成し本酵素を不可逆的に失活させると推定された。今後、リン酸化を鍵反応とする新たな機構で作用する自殺基質を設計する予定である。
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