研究概要 |
P-glycoprotein (P-gp) を過剰発現するヒト咽頭上皮がん細胞 (KB-C2 株) および multidrug resistance protein (MRP) を過剰発現するヒト咽頭上皮がん細胞 (KB-CV60 株) を用いたがん多剤耐性克服物質を探索するアッセイ法を構築し、海洋生物の抽出エキスから耐性克服物質をスクリーニングした。その結果、三重県英虞湾で採集した Spongia 属海綿のアセトン抽出エキスに耐性克服活性が見られ、この抽出エキスを活性試験の結果を指標に分画精製して主活性成分として agosterol A と命名した新規ステロールを単離し、その全化学構造を決定した。Agosterol A は、3,4,6位にアセトキシ基、11,22位に水酸基を有する高度に酸素化されたステロールで、1〜3μg/mlの濃度で各種抗がん剤に対するKB-C2およびKB-CV60株の耐性を完全に克服した。また、agosterol A(3〜10μg/ml)は、両耐性株におけるvincristine の細胞内蓄積量は親株(KB 3-1)と同程度にまで回復し、細胞外への vincristine の過剰排出も同様に阻害された。さらに、azidopineを用いた P-gp に対する競合結合実験では、 agosterol A は用量依存的にazidopineの結合を阻害し、 KB-CV60 株から調整した membrane vesicle を用いた輸送実験においても、sgosterol A はmembrane vesicleへのLTC_4の取り組みを阻害した。以上の結果から、 agosterol A は薬剤排出膜蛋白質であるP-gpおよびMRPに直接作用してその機能を阻害し、耐性克服作用を示すと考えられた。さらに、 agosterol AはKB-CV60株における細胞内 glutathione 濃度を低下させる作用を持つことも明らかになった。また、同じ海綿から得られた agosterol A の類縁体やagosterol Aから合成した誘導体の活性を比較検討し、agosterol Aに存在する3個のアセトキシ基と2個の水酸基は、いずれも活性発現に重要であることを明らかになった。
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