研究概要 |
高等植物の生体防御機構の生化学的解明のために,低分子有機化合物をストレスとした植物細胞の応答反応について研究を行っている。平成10年度は,モノテルペノイドがカミツレ培養細胞に対して強いアポトーシス誘導能を持つことを見いだしたので報告する。 アポトーシスの判定には,細胞核の断片化およびDNAのラーダー形成を指標にした。その結果,ゲラニオールに強いアポトーシス誘導能があった。DNAの断片化は,ゲラニオールを投与してから1時間以内に始まり,4時間後にはほぼ完了した。また,ゲラニオールによるアポトーシス誘導は蛋白質合成の阻害剤であるシクロヘキシミドやRNA合成の特異的阻害剤であるアクチノマイシンDによりいずれも阻害されなかった。このことからこのアポトーシス誘導に際しては新たな蛋白質合成もRNA合成も必要としないことが示された。 つぎに,受容体からのストレスシグナルの伝達機構を明らかにするために,シグナル伝達の活性化因子および阻害剤を加えて,細胞からの過酸化水素の発生量の変化を調べた。その結果,細胞からの過酸化水素の発生は,GTPgSおよびRp-cAMPSによって活性化され,Sp-cAMPSによって阻害された。また,モノテルベノイドの投与直後から,細胞内のcAMP量が増加したことより,受容体からのストレスシグナルはG-蛋白質,アデノシンサイクラーゼを経て伝達されることが示された。これらの結果は,脊椎動物の“匂い物質"のシグナル伝達機構に類似しており,植物における低分子化合物のストレスシグナル伝達機構は,高等植物のエリシターに対するストレスシグナル伝達機構とは異なることが示された。
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