ビオチンは生体内でカルボキシル化、カルボキシル基転移および脱炭酸に関与する補酵素である。ビタミンを合成できない高等真核生物では、食餌から取り込んだビオチンの細胞内への取り込みは死活問題である。ビオチンの輸送に関わるのが、ビオチントランスポーターである。ビオチンを合成できる微生物にもビオチントランスポーターが存在して、古くからかなり研究がなされているが、依然としてその実体は不明であった。大腸菌の場合、染色体上で86分付近に存在するbioP遺伝子がビオチントランスポーターと言われてきたが、正確な同定はなされていなかった。そこでまず、その同定を目指した。86分付近に存在する遺伝子の中で、機能が不明で、疎水性が高く、既知のトランスポーターにアミノ酸配列が類似していることを指標に調べた結果、o461が最も可能性の高い候補となった。それを確かめるために、この遺伝子を破壊し、ビオチン輸送能がどう変化するかを調べた。常法に従って作製した破壊株のビオチン輸送能は野生株の半分くらいに落ちていたが、予想した程大きな減少ではなかった。この原因を現在探求中である。酵母のビオチントランスポーターについても、その実体は皆目分かっていない。0461が大腸菌のビオチントランスポーターであるとして、アミノ酸配列の相同性から、酵母のビオチントランスポーターの可能性がある遺伝子をいくつか選び、遂一それらを破壊し、ビオチンの輸送能がどのような影響を受けるかを調べている。また、高等動物のビオチントランスポーターのモデルとして、線虫のビオチントランスポーターの研究にも着手した。
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