生体膜類似の二分子膜特性を非水溶媒中で再現し、二分子膜の機能を拡張することを目的としてつぎのような検討を行った。 i) 光学活性を有し、かつ水素結合によって分子集合安定化が得られる人工脂質として、L-グルタミン酸を基本骨格とするトリアミド型両親媒性化合物の分子設計ならびに合成を行った。 ii) 上記脂質の分散挙動をメタノール、エタノール、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン中で調査し、ほとんどの溶媒でゲル化が起こることが確認された。 iii) ゲル化の機構を調査するため、走査電子顕微鏡観察あるいは透過電子顕微鏡観察を行い、繊維状の会合体が絡み合ってネットワークが形成されていること、希薄溶液ではゲル化は観察されないが、そのキャスト膜について観察すると、やはり繊維状の会合体が多数生成していることが確認された。また、指示薬としてシアニン系色素を混合し、その可視スペクトルを調査したところ、溶媒の種類によって異なるが、ある濃度以上の脂質濃度で吸光係数が著しく減少することが認められた。透過型電子顕微鏡観察により、ゲル化はしないが、脂質の会合が認められている濃度領域が存在することを確認した。すなわち、濃度の増加によりまず脂質の会合が始まり、続いて会合体の成長、、会合の増加を経てゲルを形成するような会合体ネットワークを形成するものと結論した。ここまでの段階で得られた知見をもとに、つぎのような展開を行った。 a)脂質頭部にピレニル基あるいはジメチルアニリノ基をもつL-グルタミン酸を基本骨格とするトリアミド型両親媒性化合物を合成し、エキシマー生成やエキシプレックス生成などのケイ光特性の調査を通じてベンゼン、シクロヘキサンあるいはシクロヘキサン/エタノール等の有機溶媒中での会合・分散挙動を調査した。その結果、温度の低下にともなう混合分散状態からの相分離挙動を推定できることが判明した。 b)金属イオンをコアとする錯体の配位構造が有機溶媒中での会合・分散挙動に及ぼす効果を調査するために、金属イオンへの配位能をもつピリジン、あるいはビピリジンを頭部にもつL-グルタミン酸を基本骨格とするトリアミド型両親媒性化合物の分子設計ならびに合成を行った。
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