多種多様の構造並びに多様な生物活性を有するポリケチド化合物は脂肪酸の生合成に類似した反応機構によって酢酸、プロピオン酸、酪酸などの低級脂肪酸のCoAエステルを出発単位として酢酸から由来するマロニルCoAやプロピオン酸から由来するメチルマロニルCoAなどが脱炭酸しながら次々と結合して生じるβ-ケトメチレン鎖から誘導されるものと考えられる。本研究ではポリケチド化合物として現在、家畜の駆虫薬としてそしてヒトのオンコセルカ症の予防および治療薬として使用されているエバーメクチン(以下AVM)を取り上げた。AVM-アグリコンの生成に関与するポリケチド合成酵素(以下PKS)の遺伝子領域は、同遺伝子群のほぼ中央に位置するaveAI及びaveAII領域(それぞれおよそ30kbp)にコードされること、さらにこれらの遺伝子産物のPKSがI型脂肪酸合成酵素と同様、ポリペプチド鎖上に数種の機能ドメイン有する多機能酵素であることを推定した。昨年度までにAVM-アグリコン生成に関与するaveAI及びaveAII領域のうちのaveAI領域の塩基配列を決定し、その領域に2つの読み枠(以下ORF)が存在し、それぞれ2回、4回の縮合反応ドメインを有するPKSをコードしていることを明らかにした。本研究ではもう一方のaveAII領域の塩基配列を決定し、AVM-アグリコン生成に関与する遺伝子およびその反応過程すべてを明らかにする。本年度はaveAII領域から各種サブクローンを取得し、それらの塩基配列を決定することを行い、ほぼ完全長を決定することができた。解析結果から、aveAII領域にはaveAI領域と同様に2つのORFが存在し、それぞれ3回ずつの縮合反応ドメインを有するPKSをコードしていることが推定された。また同領域にコードされているPKS-3には合成されたポリケチド鎖がPKSより解離するためのチオエステラーゼドメインの存在が認められた。今後、さらに各段階の遺伝子領域について詳細な解析を行う。
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