部位特異変異の手法を用いて、酸素分子の運搬を主な役目とするミオグロビンに対し、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ、モノオキシゲナ一ゼ様の酸化触媒機能を賦与することを試みた。ペルオキシダーゼとミオグロビンのオキシ型結晶構造の比較、および、ペルオキシダーゼによる過酸化水素活性化機構の考察により、「ミオグロビンに於いてはヘム上部に存在する遠位ヒスチジンの位置が適切でないため、その酸化活性が低いのではないか」という仮説に至った。この仮説に基づいて、Phe43His/His64Leu(F43H/H64L)、Leu29His/His64Leu(L29H/H64L)ミオグロビン変異体を作成し、X線結晶構造解析、酸化活性の測定を行った。その結果、F43H/H64L変異体においては遠位ヒスチジンとヘム鉄との距離がベルオキシダーゼの場合とほぼ等しく、過酸化水素存存下での酸化活性が野生型と比較して10倍以上高いことが明らかになった。一方、L29H/H64L変翼体は、ヒスチジンがヘム鉄から遠すぎるため過酸化水素を効率よく活性化できないことがわかった(J.Biol.Chem.に発表)。さらに;F43H/H64L変異体を用いて様々な化合物の酸化反応を行い、その結果から、基質の活性部位への結合様式を提案した(Tetrahedron:Asymmetryに発表)。興味深いことにF43H/H64L変異体は野生型と比較して40倍ものカタラーゼ活性を有していたため、牛の肝臓由来のカタラーゼのようにヘム鉄の軸配位子をチロシンに変換したF43H/H64L/H93Yミオグロビンを作成し、カタラーゼ活性を測定したが、予想に反して活性は野生型よりも低かった。吸収スペクトル等から、この変異体ではヘム結合部位に構造変化が生じ、6配位型になっているため過酸化水素が鉄に配位できないからではないかと考えられる。
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