配偶子間の相互作用には複数の糖鎖認識機構が働いているものと思われる。このような考えを証明する一環としてブタの卵透明帯糖タンパク質の糖鎖の構造情報を基盤として、配偶子間の相互作用に関与する卵側の糖鎖リガンドや精子側の認識分子について解析し、以下の結果を得た。 1.フェツインとその糖鎖修飾体をビーズに結合させたものを擬似卵として、ブタの精子の結合能を調べ、シアリルラクトサミンやラクトサミン構造が精子によって認識されることを示した。 2.卵透明帯上のLewis X構造を有する糖鎖に着目し、種々のフコース含有糖鎖プローブを結合させたビーズに対するブタ精子の結合の観察から、Lewis X構造が強い精子結合活性を有することを明らかにした。一方、シアリルLewis X、Fuc-GlcNAc、タイプ2H型糖鎖等への精子の結合は、微弱あるいは皆無であった。 3.Lewis X構造を認識する精子の反応は、これまで明らかにしてきたシアリルラクトサミンやラクトサミンを認識する反応とは異なるものであることを、それぞれの糖鎖を結合したビーズへの精子の結合に対する可溶性糖鎖プローブによる阻害実験から明らかにした。 4.卵に対する精子の結合が、シアロオリゴ糖、アシアロオリゴ糖、Lewis Xオリゴ糖などの多価糖鎖ポリマーによって阻害されることを観察した。 5.多価糖鎖プローブのビオチン標識体を独自に開発した方法で調製し、これらを精子表面上の糖鎖認識分子を検出するプローブとして用い、シアロオリゴ糖、アシアロオリゴ糖、Lewis Xオリゴ糖等の糖鎖プローブによって、受精能を獲得した精子の頭部が蛍光染色され、一方、先体反応を誘導した精子頭部は染色されなかった。 以上より、受精には精子側の数種の糖鎖認識分子と卵側糖鎖の相互作用が関与していることが示唆された。
|